胸を開くとは
朝イチで映画を観てきました。席は昨晩のうちにネットで購入しておいたので、映画館に着いたら機械で発券し、指定されたスクリーンに向かうだけ。
「9番スクリーンは右手にあります」
と、スタッフさんに案内され、9番スクリーンに向かいながら、チケットを見て席を確認します。
「えーっと。Q-9ね………………!?」
『9のQ-9!?』
あなたなら喜びますか?それとも?
さて、今日は題名の通り「胸を開くとは」というテーマで書きます。久しぶりに体のことです。興味のない方にはまったくもってどうでもいい話ですね。
ヨガをしていると「胸を開いて」と言われたことが一度や二度や三度や四度くらい(いや。もっと)はあると思います。これって、言っている人のニュアンスなので、実際にその人が何を意図しているのかは、本人にしか分かりません。状況によっても違うでしょう。これから書くことは、僕が考察しただけのことなので、「そんな意味で言ってねーよ」という方もおられることでしょう。それを踏まえて、では参りましょう。
まずは、方向の話ですが、横と縦があると思います。横に開くのはシンプルですね。鎖骨を横に広げるような感じです。と、シンプルに書きましたが、実際は最低限の縦方向の開きがないと、横にも開きづらいので、まずは縦の方向から考えましょう。
胸を開くと聞いてイメージするアーサナって、体を反らせていることが多くないですか?先日もインスタでヨガの動画を見ていたら、反らせる系のアーサナで「胸を開いて」と言っていました。反らせる時の胸を開くって、具体的には何を指しているの?それは肋骨をこんな風に開くことです。
アコーディオンが分かりやすいでしょう。こんな風に1本1本の肋骨をパカーンと開くんです。
というのは嘘です。こんなことはできません。なぜかと言うと、胸の真ん中を指先でコツコツと叩いてみてください。そこに骨があるのが分かるでしょ。『胸骨』といいます。肋骨は左右で12対ありますが、11・12番目を除くすべての肋骨は、この胸骨にくっついています。
もし胸骨が骨ではなく筋肉みたいに伸びる組織だったら、このアコーディオンみたいな動きも可能になるでしょう。だけど胸骨は骨です。伸びません。アコーディオンで説明すると、この絵のパカーンと開いている側を、開く前に糸で結び付けられているような状態。開きたくても開けないのです。
肋骨と胸骨の動きを示した図がこれです。
左の太いのが背骨で、横に走る細いのが肋骨(上が第1肋骨で、下が第10肋骨)、縦に走る細いのが胸骨(AからBまで)と肋軟骨(BからCまで)です。
これは反っているわけではなくて、息を吸ったときの動きを示しています。でも反るときと肋骨の動きは同じです。アコーディオンみたいに動いていないでしょ?どんなに深く反っても同じことです。具体的な話として、「胸を開く」といっても「肋骨は開かない」ということが分かったと思います(ただし、呼吸に伴って肋骨と肋骨の間が広がったり狭まったりしますよね。その程度の動きはあります)。
えー、でもウルドヴァ・ダヌラーサナ(ブリッジ)とかやってると、開いてるような感じがするよ、と言われるかもしれません。でも事実としては開けないんです。じゃあどこが開いている感じがするのか。
それを考える前に、そもそもみんなの思う胸ってどこよ?って話です。登場してもらいましょう。どうぞ、なかやまきんに君です。
素晴らしく分かりやすい筋肉ですね。胸というと、このきんに君のモリッと膨れ上がってる部分をイメージしません?これは大胸筋という筋肉です。この部分を胸と呼ぶならば、上でも書いた通り、どうがんばっても胸は縦には開けません(胸の筋肉は伸びるけど)。
では、きんに君で示した胸より下の肋骨(鳩尾から下)を、両手でガシッと掴んで深い呼吸をすると、横方向に持ち上がったり、下がったりするのが分かると思います。ここを胸と呼ぶ人はいないと思うんです。じゃあ何と呼びますか?肋骨を掴んだ両手を内側にずらすと、そこにあるのは腹筋ですね。もうお腹じゃないですか?上腹部です。では、腹筋群を見てみましょう。
上が腹直筋。下が腹横筋(今は腹横筋は無視します)。
上が内腹斜筋。下が外腹斜筋です。
骨盤と肋骨の間を、こんなにたくさんの筋肉が繋いでいるんですね。
いきなりですが、結論です。「胸を開く」の正体は、「これらのお腹の筋肉を伸ばす」が1つの正解と言えると思います。
反るアーサナを、バックベンド(とかベンディング)と言うことが多いです。直訳すると「後ろに曲げる」ですね。これは背骨の視点でいうと、後ろに曲げるということ。
別の表現では、フロントオープナーとも言います。オープナーですから、「開く」ですよね。「前側を開く」これは、まさに胸を開くに近いです。けど、その正体はお腹を開く(伸ばす)です。もう少し具体的に言うと、肋骨を持ち上げて、肋骨の集まる胸骨を持ち上げる。胸骨を持ち上げるとは、骨盤から胸骨や肋骨を遠ざけること。この遠ざけようとする動きが、丸くなっている胸椎(きょうつい。背骨の肋骨がくっついている部分。12個あります)を伸ばしてくれます。背骨の視点も取り入れて、背骨を伸ばし反らせながら、腹筋群を伸ばす。アコーディオンを思い出してください。あれは、肋骨ではなくて、鳩尾から下のお腹をアーチ状に伸ばしている図だとイメージすれば、ちょうど良いのではないでしょうか。
ちょっと話を変えます。体を真っ直ぐにして座ります。その体勢で両腕を頭上に上げましょう。肋骨たちが持ち上がってこないですか?これはさっきの、きんに君の大胸筋の作用です。大胸筋は、「鎖骨・胸骨・肋軟骨・腹直筋の一部」と「腕の骨」を繋ぐように走行しているので、両腕を頭上に上げると、大胸筋が引っ張られて、結果として胸骨や肋軟骨も引っ張り上げられるのです。なので、ウルドヴァ・ダヌラーサナなどの頭上に腕を伸ばして反るアーサナでは、肋骨は自然と引っ張り上げられます。これも1つの胸を開く感じに繋がっているかもしれません。
忘れるところだった。横方向に開くには最低限の縦方向の開きが必要と最初に書きました。背中が丸い状態を、今まで書いてきたことで説明すると、胸骨や肋骨が骨盤の方に下がって、お腹が縮んでいる状態で、肩甲骨が上がってきている状態とも言えます。肩甲骨と鎖骨は繋がっているので、背中が丸くなって肩甲骨が上がり広がっていると、鎖骨を開くことはできません。なので、鎖骨を横方向に開こうとする前に、まずは胸骨や肋骨を骨盤から遠ざけるようにお腹の縮みをなくし、背筋が伸びることで、肩甲骨を下げて定位置に戻し、それから鎖骨を開くようにするのが、順番的にはいいです。トリコナーサナなどで、手をより足の方に下げるのが正義という価値観だと、モモ裏の筋肉(ハムストリング)が十分に伸びないうちは、背中は丸まり、結果としては胸の横方向の広がりを得られない窮屈なものになります。何のためにやっているのか、どういう意味があるのかを分かった上で優先順位を決めないと、間違ったアーサナになりやすいという典型です。
これらのことを知ったところで、バックベンドが深まるわけではないでしょう。ただ、何が起こっているのかを知るだけです。でももし、これらのイメージが不用意な負荷を減らし、アーサナの理解の役に立てるのなら幸いです。
具体性を増しすぎると訳がわからなくなるので、荒い解説ではありますが、「胸を開く」を考察してみました。
映画を観た後で、バイクに乗って出かけよう!と思ったのですが、「9Q9」が一瞬頭によぎった僕は、ネガティブに捉えた1人です。結局4時間くらい走ったんですけど。